雪。昨日までは雪殆ど消え失せ雪殘り少なうなりしが、本朝に至り寒さのまさりけると共に六花の繽紛たるをみる。地面のけがれたる草木のさびしげなりしは、とみに銀色にかざりなされて景色よし。
起居身體 午前六時半起床す。午前九時粗末なる雜煮を食ふ。
行事交際 雜煮を認め終りたるまもなく鈴木村長來校せられ、尋で高橋君自宅より歸校せらる。午前十時十五分前までに四方拜式場の整頓ををへ、十時式を始め、十一時終りて來賓一同と祝酒を傾く。來賓は二人を除く外十二時解散せられ、二人は密談やありけん、其後知らざる間に退出せられたり。
四方拜中に於ける予の誨告次の如し
本年は日露の交戰すでにやみ、平和の新年を迎へたるものなり。平和は天人の等しく希望する所にして、干戈を交へ多大の人命と財政とを之に投ずるも亦、希ふ所は平和を得るにあり、平和はすでにかかる絶大の希望を囑せらるゝもの、而して人々其業を成し、社會を組織し國家を成立し、益以て之を進歩し改良し、自己の天性を發揮するは一として平和の間に於てすべきにあらざるものなし。平和ならざれば事就りがたく敗るゝのみ、故に平和は吾人の一日も忘るべからざるものなり。又轉じて人生の幸福を考ふるに、平和に浴するにまさるものなし。假之顯位に上り巨萬の財を貯へたりとて心平ならざるもの和せざるものは、人爵の卑きに甘じ、赤貧に處して尚心常に和して平なるものに比すれば、其身の幸福は之に及ばざること遠し。故に平和は吾人の生命とも稱すべきなり。平和なる國家は益榮え平和なる社會は益進歩し、平和なる家庭は愈昌に、平和なる人樂んで向上するを得べし。學校亦然り、教員平和、兒童平和なれば愈學業進歩し、德性向上すべし。嗚呼平和なるかな、平和を常に心に措け、さはいへこゝにまた忘るべからざるは亂なり戰なり競争なり勝って兜の緒を締むる事なり。假之平和は尊ぶべく希ふべしとて、優柔に流るゝが如き事あるべからず。必ず一點の締處なかるべからず、和ぎ足るなかに犯すべからざる凛乎たる氣概なかるべからず。かくありてこそよく平和を保たるべけれ。
昨年八月本校准訓導の職を退き、現在高田師範學校内尋常科一年講習科に於て學習中の田中君〔政次郎〕來校あり。四方拜式に臨まれ教員一同に羊羹五本の寄贈ありたれば、式終りて後、予等一同は此羊羹に尚二十錢分の菓子を加へて、同君を主賓とし高等科生渡辺まつ子、伊藤いく子、及び昨年三月本校高等科を卒業したる山本かず子の學校に居たるを加へて、宿直室に於て茶菓會を開き、かるたの戰をなす。中村君は事故ありとてかるた戰の開會前にさられ、かるた戰二次の後、斎藤、加藤の兩子は歸宅せんとて辭されば、いなみがたくつひに二子はさられ、かるた會もこゝに終りを告げぬ。かるた會をはりし後、田中君はいく子、かず子に催眠を施したれど何れも失敗に歸したり。かず子に施術中、鈴木勇七君〔渡辺勇一君の弟にて福戸村鈴木音吉君養子〕來訪せらる。其後まもなく三女子ともさり、高橋君、田中君相尋いで歸宅せられば、予は書初をものす。其語に曰く
靜窗、心平則氣自和
尚此他拙き和歌などもものす。
勇七君去られ、書初ををへたる後、日は暮れたれば冷飯を温めて味噲菜もて、そこそこに夕餉をしたため、渡辺勇一君がりへ年禮にまうで、雜談數刻をうつし午後十時歸校し日記を認む。渡辺君の進物は三盆砂糖一斤にして、是れ例年の定めとせるものなり。
所感 本年よりは朝寢の癖を斷然廢すべし。予に從來朝寢の癖ありて學校の休日など、急務なきに於ては頗る睡眠を貪り、殊に晩秋より初春に至る間は起床或は九時十時になり、爲に日の短きを感ずる事多し。是甚だ嫌ふべき惡習にして事業の進行を妨ぐる事尠とせず、故に本年よりは斷じて此貪眠の惡習を打破すべし、然れども予の朝寢を貪るはまた幾分身體上の關係、之を然らしむるものなきにあらず、されば假之早起すとはいひながら身體の健康度に適せざる過度の早起は敢て期する所にあらず。之を要するに普通の睡眠は之を減ぜず、即ち約八時間の睡眠を常例とすべし、故に若し事故の爲就褥の時遲る時は、翌朝の起床も從而早からざるべし。ここに就褥時、起床時の常則を定むる事次の如し。
一、九時就褥 五時起床 四月より六月迄
二、九時就褥 四時半起床 七月より九月半迄
三、十時就褥 六時起床 九月下旬より三月迄
攝生五則
靜慮 心靜ならざれば、みだりに精神を勞し身體の健康を害す
正眠 眠正しからざれば、身體疲勞して體力を滅殺す
快遊 愉快に遊ばざれば、身心に生氣なし
水浴 一は皮膚を健全にし、一は正課に服する良習を養ふ
深呼吸 内臟を強健ならしむ。元氣を旺盛ならしむ