明治四十年(1907年)三月一日 金曜
風雪寒氣甚しく、終日氷とけず。
起居身體 午前七時五十分起床、歸校して翌一時就褥。夕食後約二時間炬燵にてねむる。
見聞行事交際 朝渡辺君方にて牡丹餅の饗に接す。
甚五郎弟より二月分交換文到着す。之に添へて金四拾五圓請求の書あり。此金は昨年條蟲退治治療の際、肛門部に故障を來し、入院治療の必要にせまられたれば、之が入費にあてんが爲となり。
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風雪寒氣甚しく、終日氷とけず。
起居身體 午前七時五十分起床、歸校して翌一時就褥。夕食後約二時間炬燵にてねむる。
見聞行事交際 朝渡辺君方にて牡丹餅の饗に接す。
甚五郎弟より二月分交換文到着す。之に添へて金四拾五圓請求の書あり。此金は昨年條蟲退治治療の際、肛門部に故障を來し、入院治療の必要にせまられたれば、之が入費にあてんが爲となり。
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雪ふり風ふく。積雪約五寸をみ、地雪に合すれば深さ約二尺。
起居身體 宮崎君方にて午前七時起床、渡辺勇一君方にて午後十時就褥。
見聞行事交際 午前八時半宮崎君より歸校して出勤す。晝食は宮崎君より重詰にて飯と昨夜饗の殘物及び香の物まで、渡辺君、松田君と予の分をおくりたまはる。何ぞ厚意の甚しき。
放課後、廿六日村長の談、即ち郡視學の意を中村君に傳ふ。君曰く、かねてより覺悟の事、而も今日まで黙せられたりしは、むしろ予に於ては餘慶と思ふなり、と。嗚呼、小學教師の末路あはれむべきかな。君の貯蓄の財は多からざるやにきく。餘命を如何にして送るべきか。
夕食後渡辺君へ、沐浴の招に應じて參り泊る。
所感 あゝ日月の經過矢よりも早し。本年は大に勵み、大に爲すあらんと思ひ立ちながら、二ヶ月は既にむなしく費したる感あり。ことに本月は何事かをなしたる。
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晴、寒はげし。
起居身體 午前七時半起床、宮崎教宣君方にて午後十二時過就褥。
見聞行事交際 芹川出身石井富次郎君、花井、渡辺朱作君、補充兵教育召集に應じ、本日出發十六聯隊へ向ふ爲、午前八時四十分校庭に於て、歡送の式を舉ぐ。相集るもの尚武會員、軍人團、學校職員、兒童なり。九時十五分式終り、職員兒童は解散、課業をなし、其他は槇下或は長岡停車場まで送る。今後職員兒童は戦時にあらざれば、應召軍人を遠くまで送らざる事とす。午後四時宮崎君方へ職員一同まねかれ行き、晩餐の饗を受け、食後招かれ來りし青年、鈴木定次郎、石井、中山平藏の三君及び宮崎君細君と歌かるたをなして、夜をふかし、夜食に甘酒、阿部川餅等の饗を受け、こゝに泊る。渡辺わか子君、松田とき子君も。
加藤みよし子君より封書をおくらる。其要に曰く、
かねてお約束の短冊進呈の件は、今いましばらく御猶豫ありたし、また寫真は却而御迷惑とならんをおそれて差上げず、左様了承たまはりたし。兩親の病氣も略快癒したれば御安心あれ。師の君〔予をさすなり〕よりたまはりし短冊は何とて返さるべき。こは記念物なれば、やがては掛物に表装せん胸算なり。
と。こは予が十九日發信に對する挨拶なり。中々すべるにうまき君かな。
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晴。
起居身體 午前七時起床、午後十一時就褥。數日睡眠不足の爲疲勞を覺ゆ。
見聞行事交際 高橋君は師範入學試驗に應ずる爲、明日出發すべく本日歸宅の筈につき其行を壮にする為、午後三時宿直室に於て、茶菓會を開き四時閉會す。五時半鈴木村長來校、次の件を傳へ、かつ質せらる。
大竹郡視學曰く、中村君は老朽につき、退職を命じ、其後任として本年度師範卒業の男子を一名任ずべし。こは小學校長會のをり佐々木君に話すべかりしも、取込のため逸したり。此旨、佐々木君に傳へられたしとありたれば、其豫定にてありたし。
校丁は尚繼續勤務の事と決したり。
尚予が次の意見に對し、賛同の意を表せらる。
來年度は准教員給月額一圓を昇する事、參觀旅行手當を支給せられたき事。
夕食後新聞を讀み、廿四日以來の日誌を認む。
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晴。
起居身體 午前七時起床、脇川にて午後十二時就褥。
見聞行事交際 午前八時出發、村上屋書店に立寄り、千代子妹への次の書を託し、注文しおきし學校用書を受取り歸校す。書の要は、今日はあはで、いと口惜しく思ふ。さく子君、故ありて實家に歸りゐらるれど、お託しの書はとりあへず届くべしと。歸校の時、課業一時半分を過ぎたり。放課後、高橋君の川袋校に行くに同行して、まず校に立寄り、太田君にすぎ子君の其後の態度を聞く。其答に曰く、
結婚についての結納は廿二日に結了せり。然れども、すぎ子は其日より与板姉上がりへ行きて、學校へは出勤すれど、實家へは歸らず、而して其最後の決心を聞くに、到底父兄の命に服して、木下へ嫁する意なく、愈強ひられたる際は、身を如何にするの問に對し、柏崎妹がりへ行き哀を請ふ決心なりと答へられたりと。尚聞く所によれば、柏崎に出奔の事は、太田君が暗に其道に出づべき様に示したるものゝ如し。
尚、同氏とすぎ子君の件につきては、及ぶ限り同情をよすべきものたるべければ、道義の許す限りに於て、盡すべきを約し、六時そこを辭して池田紀宗太君方を訪ひ、妹よりの書をさく子君へわたし、序にすぎ子縁付の件につき事情の内容を聞きしに、もとすぎ子の父が獨斷を以て人を介して、木下へ貰受け方を申込み、木下に命じて其家の普請をもなさしめ、結婚の準備まで遺憾なく調へしめたるものなれば、此方面よりみて、徹頭徹尾縁付くるは、一家父母及び兄の意見、而も去ぬる廿二日は本人不在にもかゝはらず、結納の式を終へ、如何なる事情あるも、約の如く嫁がすべしと斷言したりと聞きたりとの答を得たり。何ぞそれ父兄の頑迷甚しきや、其不見識言語に絶したりと言ふべきかな。池田君、夕食の饗とて堅く引きとめられたれど、辭して歸宅す。
時は午後七時、今夜は我祖先の命日にて、例によりて李崎來光寺の住職を招じて、讀經説教を請ふべき日なり。予の疲れを忍びて歸宅したるも是が爲なり。今朝廿二日附重義弟よりの書を落掌したれば、其書の内容を母上に報告したるに、いとも喜び給ふ。其要は、
本學年の成績は大方及第と考ふれば、木下さんに復習監督を依頼せず、自習を精々勤め、尚友人及び校の教師に不審を正す意志ゆえ、御安心ありたし〔こは十七日附予よりの書に對する挨拶なり〕。
午後八時頃より説教あり。参詣したるもの、老若男女約三十名、説かるゝ所いとも興あり。されどあまり感奮するところあらしめたりとも思はれず。
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雪と晴。
起居身體 午前八時起床、午後十一時半、一石君方にて褥に入る。
見聞行事交際 昨日太田君を經て、千代子妹より本日〔廿四日〕午前九時村上屋へ御出ありたしとの事なりし故、朝食後匆々に装を調へ同家に行きしに、刻約二十分遲れたれば、妹は書状二通を殘して立去りし後なりき。書は予への分とさく子君への分となり。
妹の書の要に曰く、
先日の書面五通たしかに落掌、うれしく拝見しぬ。今回我校における一事につきての説示、いとゞありがたく拝承しぬ。其後は心樂しく暮しゐるべければ、御安心あれ。くはしき事申上げたけれど、昨夜は會合あり、本日はまた外出のいそがれて認め得ず。何れ來月は休日も多かるべければ、其時くはしく申上ぐべし。時節柄御身體大切に祈上ぐ、と。
今日は妹にあはまほしと、切に念じたりしに、そが得ならで、いとも口惜し。
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晴、寒冷酷し。
起居身體 午前八時起床、午後十時四十分就褥。
見聞行事交際 在京池田實君より、美人繪はがきもて來書あり。東京は梅ほころび、農學校耕地の菜も、ぼつゝゝ花咲きそめぬと記されたり。
夕食後渡辺勇一君方へ行き、沐浴後主人に對し次の忠告をなす。彼のすぎ子君を木下傳藏に嫁するは不可なり。何となれば、結婚、兩者人物の權衡、兩家が社會上に於ける地位は、實に雲泥の差なり。然るを以て強ひて結合せば、是れ第一すぎ子君の一生を滅殺するもの、また一家の甚しき不見識、即ち名譽を害するもの、尚一面よりみれば、父母として、兄として、其子妹を遇する道に反くものたるべければなり。而も、すぎ子君の心甚だ不服なりと聞く。果して然らばたとへ親とはいへ、兄とはいへ、之を敢而強ふるは、情に於ても忍びざるものなるべし。加之すぎ子君若し之を苦慮して一生をはかなくするが如き事あらば如何。たとへ本問題はすべて契約締結なりしとはいへ、尚一考を要せられん事を切に祈る、と。
勇一君は其意大方、予に聽く所あるべきに見えたれど、さすがに父君の頑強なる意志うごかすべからざるものあるに、困ぜらるゝが如し。此談の序に聞くに、細君さく子君はまた姑と衝突ありて、本日實家へ歸られしと。其内意は離縁なるべく、勇一君また之を思ひ定められたるものゝ如く、先日は妻の頭二つ三つ打ちたり。人の頭は打ちたる事なかりしも、かゝる機會に立至りしは、我ながら不快に堪へざりきと。以て風雲のすさまじきを察するに足るべし。自習、習字。
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雪ふり、まゝ晴。
起居身體 午前八時四十分起床、歸宅し脇川にて十二時就褥。
見聞行事交際 前日同様始業十時とす。午後二時過爲二弟脇川へ行くとて寄校あり。約二時間談話して、共に脇川へ行く。爲二弟より年禮として、あんこ二本、茶々碗五箇をおくらる。外にゆきのり一包持参したる由なるも、途中にて遺失したりと。脇川にては母上、姉上、榮、虎雄兩甥、無事健全、殊に姉上の機嫌うるはしくみうけられ、いとたのしく炬燵にて物語す。
一昨十四日、渡辺勇一君の談なる、すぎ子縁付の件につき、松田君の語る所あり、曰く、すぎ子君は頗る不服の色あり、これに關はる談の出づる度毎に、いたく不快に見ゆと。さもあるべし。
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雪。
起居身體 午前七時四十分起床、翌一時三十分就褥。
見聞行事交際 本日當地方は正月安樂日に當れるを以て、午前十時始業、課業三時間の後、解散せしむ。
大字芹川出身の兒童、男二十四名、左義長材料募集の助手をなしたりとて、約十分間遲刻す。之をとりたゞしたるに、青年の二三輩が、強制的に之を命じ、若し命にそむくものは、腕力を以て制裁を加ふべしといふにおそれ、已むを得ずこゝに至れるなりといふ。依而之を訓ふるに、たとへ他の制裁ありとも、不正なる行爲は斷じてすまじき覺悟を有すべきを以てし、将來をいましめて罪を許す。
千代子妹へ封書を郵便にて發送す。其要は、十二日の妹よりの書に對する挨拶を主としたるものにして、曩の日、女子師範に於ける生徒暴舉に對する倫理的批評、及び將來かゝる事の起るに際しての心得、其他予が近況の報告等なり。
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風雪。
起居身體 午前七時半起床、翌一時就褥。
見聞行事交際 夕食後渡辺勇一君へまねかれ沐浴す。浴後次の事につき請はる。
妹すぎ子事、來學年度より芹川校職員に任用ならざるか。叶ふべくは其様取計はれん事を偏に希望す。實は同人は、村内木下傳藏に妻す事に決しぬ。傳藏は家族とて一人の妹あるのみ、資産も地價約千二三百圓を有しをれば、生活も困難ならず。また家政上も舅姑等なければ容易にて、殊に僻みがちなる妹の住まふべき所には恰當と思ひ、先方の熱望に任せ承諾しぬ。もとより家柄は數等下りをれど、若し之を顧慮して、對等者に妻さんとせば、莫大の出費を要し、現下我家庭の状況は到底之を許さず、また機を失して、縁を失するが如き事有らんをおそれ、かつは傳藏の心性、幼少時代はいと劣等なりしも、今に至っては頗る改悛の實を舉げたるを認めたる故、すぎ子本人は判然の承諾を示さゞれど、この事に決し、本月中に結納の禮を行ひ、來月若くは其翌月に送らん考なり。さすれば他村〔大字〕の學校に奉職せしめおくは、中々の不都合ならんにつき、何卒村内に勤むる様、御盡力ありたしと。
この勇一君の意見、予は首肯しがたし。彼木下傳藏は、たとへ幾分の資産を有し、かつ其家庭は暮し易きとはいへ、當人の品性極めて劣性にして、言ふに堪へざるものあり。而も彼の家柄に於て、渡辺君と雲泥の等差あるに於てをや。かゝれば、すぎ子君は殆ど世に容れられざる待遇を受くるもの、こは父母兄弟たるものゝ義務として、之をなし得べしや。一面には家名をいたく損ふものたるべし。誰か之を見て不見識の極と嗤はざるものぞ。予は朋友の義務として、大に勇一君に諌むる所あらんとす。
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朝降雪あり。晝晴、夜に至りてまた雪ふり風さへふく。
起居身體 午前八時十分前起床、昨夜少量の酒を喫したる為か、頭痛を催し、就褥後眠れざる事約二時間餘。午後十時二十分就褥。
見聞行事交際 本日當校に於て、川西教員協議會開催につき、課業は午前限りとす。
校丁西村弥吉、昨日午後及び本日午前十時頃より出勤せず。其の代理人として同人女出勤しゐしも、協議會の用を辨ずるに不都合なれば、弥吉を招致し、男子入口欄間障子の張替を命じたるに、いたく不服を稱ふ。其語氣甚だ無禮なりければ、直に一喝を加へおき、彼が職務果てし後、招致して其無禮を責め、不心得を諭したりしに、謝罪はしたれど、何おもひけん、本月限り職を辭したき旨、願出でぬ。予は之に對して、彼が過去の執務上、不心得なりしを説き、かつ一時の忿怒より、其身の不職を招くが如き事、なからんを諭したれど、彼は謹み肯ひながら、尚前言の辭職の件を繰返したれば、其旨承諾し、直に村長と協議の上、取計らふ事とす。小人の心根實にあさましきものなり。彼は其家に來訪者ありしとの事なりしに、招致せられたる事が何とのう不快なりしならん。この時に當りて、予に常の怠惰を責めらるべく、彼がおもひとる障子はりを命ぜられしものから、彼の邪見は滔々と、もえたちつるならまし。
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晴、午後三時頃より雪ふり、かつはる。
起居身體 午前八時起床、午後十一時就褥す。
見聞行事交際 始業前、兒童書初陳列場及び紀元節式場のとりくづしをなす。第五時兵式の課業は、少時兵式体操練習の後、雪合戦をなさしむ。
午後二時五十分、高橋君の實家より使まゐり、飯米一斗貳升と野菜、切そば等をおくらる。三時四十分前より、一同學務委員近藤榮五郎君方へ招かれ、酒肴と汁粉餅の饗を受け、食後歌かるたして遊び、九時半辭し歸校す。一同の名もて三盆砂糖二斤を呈す。今夜の饗宴には他の客をまじへず。こは主人、予等が酒を好まざるに、酒黨の客とまじらうては、いたく苦しむらんとの深切より出でたりと。
千代子妹より十日附にて封書來る。其要に曰く、
此頃は風邪の流行する事しげければ、如何にお暮らし給ふらん。或は御かはりもあらせられずやと、日々案じまゐらす。さて今回當校の騒擾については如何に御考へ給ふか。妾は初め一友人と共に反對はしてみたれど、衆寡の勢、實に如何ともいたしがたく、遂に其の黨に同じき。あゝ何と意志の薄弱なることよ。之につきては、同輩生徒一同は、妾等の意、其のもとは賛同にあらず、また常々とかくの非舉に反對を唱ふるものから、誰として同情をよするものなく、また校の教師も、よもや妾等二人者は、此度の暴動には與せざるべしと思ひしに、事之と違ひたりとて、いとゞ殘りをしき事に思召されぬ。あゝ是れ偏に其勇氣の足らず、意志の弱かりし罪なり。尊君に對してもいとはづかしく、かつ謝するに辭なし。さはいへ、こは既往に屬せり。今後は慎みて、かゝる事再び繰返さゞらん事を勉むべし。今回の事件以後、女子師範はもとのそれにあらず。教師としいへば仇敵視し、いづこにてもその惡口のみ。實に悲しき極なり。さて今日、少女談話會〔長岡市中の少女を正會員とせるゝものにて、前田繁之助君、主として斡旋の勞をとるもの〕開催あり。我校生徒も出席せらるゝ様との案内ありしも、蓋し我校よりは一人の出席者なからん。何となれば我同輩は擧って、前田先生を罵言しをれり。彼は無妻なるに、少女など集めて云々するは、奇怪なりといふにあり。之を以て推せば、尊君もまた我同校生の忌む一人にておはすべし。我校生の見識、我校生の品性、實にあはれむべき極なり。
御母上は御別状あらせられずや。妾の實家にては、過日一同風邪におかされ、一時は困じたれど、今は皆全快したりとの報ありぬ、と。
この書によりて察するに、妹は予が去る五日發送したる書をまだ見ざるべし。この書中に女子師範騒擾とあるは、去月廿六日、同校内浴室にて、懐中時計一個紛失したれば、其後數日生徒の外出を禁じて、之が竊盗犯人を捜索したりしに、そは三學年生の探査によりて一年講習生、本田某なることにて檢舉せられたり。是に於て、學校にては其某を退校處分としたりしが、之に關して學校と生徒の間に、意思の疎通せざりし所ありしか、生徒は學校に對して慊焉たらず、三學年一同は、無斷校を辭して外出したる椿事を惹起したり。こはやがて生徒保證人の説諭、生徒と保證人とが學校に謝罪したるとにて、外出者は復校したれど、尚、内部には何らかの騒擾ありきやに、新紙に報ぜられたる、それを指すものなり。
新任本縣知事伯爵清棲家教君、本日着任、知事は先月中に着任の豫定なりしも、昨今流行の惡性感冒にかゝられし爲に、拾數日間東京にて、療養せられしにて是に至れり。
所感 今回の女子師範學校騒擾事件、小なるに似たれども、女生徒の行動としては、頗る大事といはざるべからず。或一團が袂をつらねて脱校するとは、中々に思切ったる舉動といはざるべからず。かゝる椿事は多くは或二三者の發意扇動によるものとはいへ、之を敢而爲すに至れるは、また必ずしも其因て來る所、なきにしもあらずと聞く。女子師範の舎監は餘りに、其監督嚴酷なりと。これこの壓迫こそ、今回の事を惹起したる主因ならめ。
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晴。
起居身體 午前八時起床、午後約一時間炬燵にて晝寝し、十一時就褥す。昨夜々更しの疲勞尚いえず。
見聞行事交際 午前十時紀元節奉賀式を舉行し、十一時十分前終る。式中、校長としての予が誨告の要旨次の如し。
本日は紀元節にて、即ち遠き古、我皇神武帝が大和橿原に即位したまひし紀元日なり。これより今日に至る二千五百六十七年を算ふ。抑、神武帝が刻苦を以て、我國本を定め給ひたればこそ、吾人はこの今日ある美しき大和島根に生ひ立ちもし、かくも安けく世にあるを得るなれ。されば吾人はこの紀元節に於て、遠き昔の本日を懐ふと共に、各自その職に勤めて、此の尊き國家を維持せざるべからずといふ事を、深く念ふべし。かく念ひこれを實行するは、やがて人間の本務を盡し、忠を致す所以なり。
式終りて後は、例によりて祝宴を開く。
式場にて脳貧血を起して苦悶したるもの二名、曰く、鈴木ゑい、青木むつ。こは時節柄身體異常ありしに、今日の雜煮をしたゝめ來り、式中起立の時間、やゝ長きにわたれるが爲ならん。
夕食後、渡辺勇一君方に招かれ、沐浴し、十時迄遊びて歸校す。
下野足尾銅山に於て、去る四日より坑夫の暴動起り、六日に至りて全山燒討といふべき慘状を呈し、警官數十名、高崎聯隊兵三個中隊の派遣ありしも、今尚静穏に歸せず。こは坑夫が賃金の昇給を熱望しゐて、役員との交渉、行き悩み中なるに、ふと坑夫と或役員との間に衝突の起れるが、近因をなせりといふ。或はそれらは事實にあらずして、全く社會主義者一派の煽動によれりといふ記事、昨今の新紙にあらはれぬ。
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降雪と晴、交互。
起居身體 午前七時二十分起床、午後十時半就褥す。
見聞行事交際 本日は當地方、正月七日の安樂日とて、朝、雜煮の餅に腹ふくらしたるにて、晝食を持參せぬ兒童の多かりければ、午後の課業は四十分づつの二回として、解散せしむ。
所感 新潟師範同窓會報告をみるに、後進の生輩中、時世得がほに世に活動せるものあり、はた高等の學校に學ぶもあり。こもやがては世に出でて、同窓中一頭地を抜きたる活動をやすらん。あゝ予、この片田舎のさゝやかなる一校の長たるこゝに四年、此間何事かをなせる、思うてこゝに至れば、感慨、轉た堪ふべからず。あゝ勉めんかな、勵まんかな。
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風雪。
起居身體 午前八時起床、午後二時歸校して十一時四十分就褥。
見聞行事交際 朝餐に雜煮餅の饗を受け、老人と會談する事數時にして、午後三時歸校し習字をなし、日を終ふ。この習字に用ひし紙は妹が手紙にして、書きならひしは歌なり。かく歌書きならうて後焼きたるもの、都て卅參通なり。之によりて考ふるに、尚殘しとゞめしもあれば、妹よりの書状、卅九年度、封書又は封筒を略せしもの廿九通、葉書三通、四十年度に至りて封書三通なり。
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風雪あれすさむ。
起居身體 午前八時起床、風邪の氣味ありて數日水浴を廢したりしも、今朝全く快瘉とおぼしき故、復之をなす。いと心地よし。午後十二時渡辺勇一君方にて眠る。
見聞行事交際 夕食後、妹よりの書状をとりしらべ、まづ封筒のみをとりいだし焼く。さきに書状を焼きくれとの請求ありければなり。
夕食後、渡辺勇一君方へ行き、さく子君、すぎ子君、松田とき子君等と歌かるたをなし、こゝに泊る。主人も往診の用すみし後は、予等の遊戯に合せらる。就褥前、阿部川餅の饗を受く。
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風あれ雪ふきすさむ。昨日迄雪殆どなかりしに今朝は約五寸積れるをみる。
起居身體 午前七時半起床、歸校して翌二時半就褥す。夕食後こたつにて約三時間眠る。
見聞行事交際 石井作五郎君より年玉として、玉露茶四半斤をおくらる。朝、雜煮餅をしたゝめ、風雪をおかして出勤し、授業をなす。當地方、正月の安樂日に當るを以て、特に十時始業、三回の課業にて午後一時放課とす。放課後、次の心得を訓諭す。
お正月中は餅、肴等の馳走あるべければ、食を過し勝ちなるにより、各自慎みて暴食せざるべき事、また遊戯としてとかく博奕をなす惡習あれば、かゝる誘惑に染まらざるべき事。
さく子君より、千代子の予へおくりし書を届けたまはる。其要に曰く、
ひさしくおんめもじせで、いとゞこひしさまさりつ、御書もいたゞかねば、をりふし、うつしゑと、かつてたまひし歌とをひらきみて、心をなぐさめゐはべるなり。かつて御はなしの將來進まるべき方針につきては、如何におんおぼしめすか、切にきかまほし、と。
この方針とは予は前途、畫道に身を立つべきなれば、今後よき便あらば、囑託の資格にてなりとも、中等教員の列に入らん考なりと、語りし事ありしをいふなり。
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風強く雪ふり、あれまはる事いともすさまじ。
起居身體 午前七時起床、歸宅して當地方大晦日の晩餐に會し、翌一時就褥す。
見聞行事交際 本日は當地方の大晦日なればとて、午後三時出發して歸宅す。午後六時半、晩餐ををへぬるが、會食者、母上、姉上、虎雄殿、外に四十年度より召使ふべき山下ちよ、それに予。榮殿は通學の便よき爲に、姉上實家に寄宿しゐて歸らず。いとゞさびしきお年とりをなしぬ。晩餐後、村人歳暮禮に來る。
今宵母上の談に曰く、過ぎぬる日、村方へ畫幅を持來りて、説教したる僧ありけり。嫁子を勸めて之が聽聞をせしめたるに、其後は荒き心とみに改まりて、いとゞやさしくなりつと。一層の教示何ぞそれ感化の偉大なる事よ。予輩、姉上のこの心を矯めんとする、茲に年ありしも、今に其功を奏せざりしに、果して僧の説美なるか、予輩の諫言、その實を盡さゞるか、否々、これたゞ聽く人の心にありしのみ。予輩は母上の子なり、これたゞ母上を愛して、姉上を憎むと、ひたすらに思ひ疑はれしによるなるべし。姉上は一僧の教示によりて、かくも改心せらるゝ其折には、過ぎこし身の行を悔い、予輩が嘗てときし諫言をも思ひ浮べて、之に聽く所あられしなるべし。されば予輩の諫言全くその効を奏せざりしとはいふべからざるか。あゝ我家の幸福、これより多祥なるべきか。
本月廿四日四拾圓、外に母上にとりかへを請うて二十圓をやり、昨年貸金分拾圓を合したる金七拾圓貸の證文を、竹内敬吉氏名にて、同息佐吉氏より受取り、拾圓の證文は即座に返す。今日受取りし證は、利子年一割の定にして、四十一年六月廿七日返金の約なり。昨年八月与板水野弥平次に貸したる、金四十圓の利五ヶ月分貳圓を受取り、之が受領證を認め、届方を母上に託す。同氏は八月分の利、半額を添へたれど、こはとらず返す事とす。母上よりとりかへを請ひし貳拾圓の内、拾五圓丈を返却す。餘は來月返すものなり。
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晴。
起居身體 午前八時起床、午後十一時就褥。
見聞行事交際 与板飯田書店員來校したれば、吉野拾遺詳解とかな手本とを購ふ。芹川大工青木弥曾八より歳暮として油揚廿一、若月作五郎君より三盆一斤をおくりこす。
渡辺勇一君より、さきに依頼ありし、兒童眼疾治療料取立分を納附す。かねて新聞配達夫に注文しおきし、煙草四十匁包三箇、持參しくれたり。自習、習字。
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快晴。
起居身體 午前七時起床、午後与板をまはり歸宅せんとし、与板木村君方に泊り、翌二時ねる。
見聞行事交際 花井、渡辺六郎君より歳暮として三盆一斤をおくりたまはる。このうつりに繪葉書二枚とロ-ル半紙約一帖をやる。
午後二時出發して、与板に行き、二三の用を辨じ、木村君へ立寄りしに、叔父上との談に時を移し、こゝに夕食の饗を受く。たまゝゝ川崎巳三郎君方にて、今夜、与板校教員諸君のかるた會あるときゝ、予もまた列して奮戰十數回、翌一時に至りて解散す。今回夜食に鮨の饗に接したり。与板校諸君の快戰は、頗る元氣旺盛なり。然れどもいさゝか亂雜にして、秩序を缺く風のあるは、稱するを得ず。
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雨ふりまた曇。
起居身體 午前七時十五分起床。風邪尚いえず。
見聞行事交際 在京池田實君より、興味ある繪はがきもて、おとづれあり。池田君よりの葉書には、五六歳の兒童、火鉢の傍にありて、長煙管もて喫煙する繪あり。之に題しておもしろき川柳、次の句あり。
ふかす煙草 一寸きどりて 母をまね
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